ジゼル – Giselle

ロマンティックバレエの代表作『ジゼル』。三大バレエ・ブランの1つとして知られています。
「ジゼル」によりバレリーナがトゥシューズを履いて踊ることが確立されました。バレエの歴史にとってとても重要な作品の1つです。

目次
1 – 『ジゼル』について
2 – 登場人物
3 – あらすじ
4 – 特徴

1 – 『ジゼル』について

『ジゼル』はロマンティックバレエの代表作です。『コッペリア』でもお伝えしたとおり、ロマンティックバレエはロマンティックなバレエと言う意味ではありません。19世紀のヨーロッパはロマン主義芸術の時代で、バレエにも影響します。薄いチュールを何層にも重ねられた長いチュチュを女性が着てトゥシューズを履いてつま先で踊り、幻想世界を表現しました。「ジゼル」の初演の前、1832年に妖精がテーマの「ラ・シルフィード」が上演されました。このときはじめてつま先で踊ったのがマリー・タリオーニです。その後、「ジゼル」によりトゥシューズの技法が確立しました。

ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの「ドイツ論」が原作。これを翻訳した本が岩波文庫に「精霊物語」と言うタイトルであります。
結婚式をあげる前に亡くなってしまった花嫁達が妖精ヴィリとなり、夜中に森に迷い込んできた男性を死ぬまで踊らせるというオーストリア地方の伝説に着想を得てテオフィール・ゴーティエは台本を作りました。ゴーティエはイタリアのバレリーナ、カルロッタ・グリジの熱狂的なファンで彼女のためにバレエを創ろうとしました。

1841年6月28日、フランス、パリ・オペラ座にて初演。初演時の題名は 「ジゼル、またはウィリたち」(Giselle, ou Les Wilis )で全二幕で上演されました。主役のジゼルはカルロッタ・グリジ。アルブレヒト役はリシュアン・プティパ(マリウス・プティパの実兄)です。作曲はアドルフ・アダン、振付はジャン・コラーリとジュール・ペロー。初演は大成功しました。デビューまもないカルロッタ・グリジはこれによりオペラ座での地位を確立しました。台本を手掛けたゴーティエは成功を報じられた後にハイネの「ドイツ論」にヒントを得たことを明らかにしました。

1842年、初演から1年で早くもロシアのサンクトペテルブルクで上演されました。

1843年、ミラノ・スカラ座で上演されヨーロッパのバレエ界に普及していきます。

1848年から1859年まで「ジゼル」の振付を担当したペローはサンクトペテルブルクの帝立バレエのダンサーと契約したのちバレエ監督となりました。ペローの改訂により、ジゼルが狂乱する場面がより明確になり、第2幕の主役2人によるパ・ド・ドゥ部分が変更されました。

1868年、ロマン主義芸術の衰退という時代の流れにより「ジゼル」はオペラ座のレパートリーから外されました。

1884年、サンクトペテルブルクで振付家マリウス・プティパによる改訂版が初演されました。プティパは数回にわたって大規模な改訂を行いました。有名な第1幕の「ジゼルのヴァリエーション」はプティパの振付で、曲はレオン・ミンクスが新たに作曲しました。そのほか大きく変更されたのは第2幕で、ウィリたちによる踊りのスタイルが統一された上、群舞が重層的に展開するものへと作り直されました。

1910年、パリのシャトレ座で「ジゼル」が復活した。これはセルゲイ・ディアギレフの率いるロシアバレエ団によって実現しました。

1924年、パリ・オペラ座でプティパ版が再演され大成功となりました。

現在、上演されている「ジゼル」はプティパ版です。「ジゼル」はロマンティック・バレエ史上最大の傑作であり、バレエ作品を代表する1つとして現在なお踊られています。

2 – 登場人物

・ジゼル/Giselle…身体が弱いが踊りの好きな村娘

・アルブレヒト/Albrecht…シレジア伯爵。身分を隠し、村人の服装で現れる。ロイスと名乗る

・バチルダ/Bathilde…アルブレヒトの婚約者

・クーランド大公/Le prince de Courlande…クルランド君主。マチルダの父親

・ヒラリオン/Hilarion…ジゼルに恋している森番の青年

・ベルタ/Berthe…ジゼルの母親

・ミルタ/Myrtha…森の精霊(ウィリ)の女王

3 – あらすじ

〔第一幕〕

舞台は中世のドイツ。のどかな村でブドウの収穫の時期を迎えています。

ジゼルは踊りの大好きな村娘ですが、生まれつき心臓が弱く病弱な一面もありました。明るく美しいジゼルは母親と二人暮らし。

そしてジゼルにはロイスという恋人がいました。ロイスはジゼルの向かいの小屋に住み、二人は結婚の約束もしていました。ロイスとはアルブレヒトの偽名で、ジゼルを気に入っていたため貴族の身分を隠して付き合っていました。

ジゼルに密かに想いを持ち続けていた森番の青年ヒラリオンはアルブレヒトの正体に疑問を抱いています。ヒラリオンはこっそりとアルブレヒトの小屋に忍び込み、衣装や剣を見つけて村の人間ではなかったとことを確信します。

ある日、狩りに出た公爵一行がこの村に立ち寄ります。その中でひときわ目を引く若い貴婦人は、実はアルブレヒトの婚約者バチルダ姫でした。ヒラリオンは、嫉妬にかられてアルブレヒトの身分を暴露します。アルブレヒトとバチルダの関係も明らかになり、ジゼルは大きく動揺し混乱します。アルブレヒトはクーランド大公の目の前でバチルダかジゼルを選ぶという逃げられない状況でバチルダを選びました。これを見ていたジゼルはさらに混乱し、髪を振り乱しながら自分に向けて剣をとります。周りの人に止められて自分の手を使うことはありませんでしたが、もともと心臓の弱かったジゼルはショックから命を落としてしまいました。

〔第二幕〕

ジゼルの墓がある夜の森。
森の中にはウィリという精霊がいます。結婚を前に命を落としてしまった娘たちが妖精ウィリとなって夜な夜な姿を現し、通りかかった男を誘って死ぬまで踊らせると言われています。ウィリの女王ミルタはジゼルをウィリの仲間に迎えられます。

そんな中、森番の青年ヒラリオンがジゼルの墓参りに来ました。自分のせいでこんなことになってしまったと許しを請いにやってきたのです。しかし、ウィリたちはヒラリオンのことを許しません。裏切った男を死ぬまで踊らせ、ついにヒラリオンは池に落ちて死んでしまいます。

そして今度はアルブレヒトがジゼルに許しを請いにやってきました。ウィリたちはまたアルブレヒトにも踊らせようとしていたところ、ジゼルが懸命にアルブレヒトを守ります。そしてついに夜明けの鐘が鳴りウィリたちは墓に戻っていきます。
 
なんとか命は助かったアルブレヒト。ジゼルはアルブレヒトに永遠の別れを告げて消え去ります。アルブレヒトはジゼルの墓の前に一人たたずむのでした。

4 – 特徴

・第一幕では昼間の明るい農村のぶどう収穫祭、第二幕では夜の暗い森の中に変わり二幕が対照的です。

・ジゼルは第一幕では恋をしている可愛らしい村娘を踊り、対照的に第二幕では心も髪も振り乱して踊ります。そして、クライマックスでは神聖な踊りへと変化します。

・「ジゼル」は主人公が死装束で踊る唯一のバレエ作品といわれています。

・マリウス・プティパが現在の「ジゼル」に改訂演出した際に第二幕を大きく変更し、ウィリたちのコールドを隊形で見せる形にしました。ウィリたちの一糸乱れぬコールド。特にアラベスクでウィリたちが交差する場面は圧巻です。

・アルブレヒトとヒラリオン、2人の男性が同時にジゼルを愛し、力が尽きるまで踊り狂わせる姿は「ジゼル」でしか見れません。
特に第二幕のアルブレヒトの永遠に続くアントルシャ・シスは見逃せない踊りです。

・「ジゼル」はバレエ・ブランの1つです。バレエ・ブランとはバレリーナ達が白い衣装で踊る場面や作品のことを言います。ブランとはフランス語で「白」という意味。バレエ・ブランは妖精や精霊など非現実的な世界を表現しています。他にも「白鳥の湖」や「ラ・バヤデール」などもバレエ・ブランと呼ばれています。

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