バレエと身体の変化:思春期の壁をどう乗り越えるか

はじめに

バレエを続ける多くの若いダンサーにとって、思春期は大きな転機です。
それまで順調に上達していた子が突然スランプに陥ったり、体の変化に戸惑いを覚えたり……。

「昔はもっと回れていたのに」
「前より脚が上がらなくなった」
「体が重く感じる」

そんな声が、スタジオのあちこちから聞こえてくるのがこの時期です。
本記事では、思春期の心身の変化がバレエに与える影響、そしてその変化とどう付き合っていけばよいのかについて掘り下げていきます。


1. 思春期に起こる身体の変化

思春期には、ホルモンの影響で急激に身体が成長します。
この「成長スパート」によって、以下のような変化がダンサーに起こります:

① 身長の急成長

  • 重心が変わり、バランスが取りづらくなる

  • 脚が長くなったことで動作のタイミングにズレが出る

  • 回転やジャンプが不安定になる

② 筋肉と骨格の変化

  • 骨の成長が筋肉に追いつかず、一時的に硬くなる

  • 筋力が追いつかず、柔軟性が下がることも

  • 足のサイズが変わり、ポワントが合わなくなるケースも

③ 体脂肪の増加(特に女子)

  • 一時的に見た目が変わり、自己肯定感が下がる

  • 動きが重く感じられる

  • 衣装が合わなくなることでストレスを感じる


2. 心の揺れとバレエへの影響

身体の変化は心にも影響を与えます。
とくに思春期のダンサーは、「自分は踊れるのか」「前より劣ってしまったのではないか」と不安になることが多いのです。

よくある心理状態

  • 自信をなくす

  • 比較して落ち込む

  • 努力しても結果が出ず、やる気をなくす

  • 指導者や親と衝突しやすくなる

このような時期は、メンタルケアも踊りの一部と考えることがとても重要です。


3. 思春期の壁を乗り越える5つのヒント

① 「今は変化の途中」と理解する

この時期は“うまく踊れない”のではなく、“身体が変化している最中”。
今は「再調整期間」として、焦らずじっくり向き合いましょう。

② 動作の見直しをする

身長や骨格の変化により、以前と同じフォームが通用しなくなることがあります。
基礎に立ち返って、

  • 重心の位置

  • 足の着き方

  • 腕の使い方

などを、現在の身体に合った動き方にアップデートしていくことが大切です。

③ 体のケアを習慣にする

  • ストレッチを強化する

  • 正しい筋トレを取り入れる

  • 栄養を見直す

  • 睡眠をしっかり取る

成長期の体を傷つけないよう、ケアを日常に取り入れましょう。

④ 比較ではなく「昨日の自分」と向き合う

SNSや周囲と比較するのではなく、自分の“前日比”を意識して取り組むことで、前向きさを保てます。

⑤ 信頼できる大人と話す

親・先生・トレーナーなど、信頼できる大人と気持ちを共有することは、メンタルを支えるうえでとても重要です。
ひとりで抱え込まず、「悩んでいること自体を肯定」してくれる存在を持ちましょう。


4. 成長の先にある「本当の踊り」

この思春期を乗り越えた先には、**本当の意味での“自分らしい踊り”**があります。
テクニックだけでなく、音楽と感情と身体が結びつくようになるのは、この成長期を経た後なのです。

思春期は、“伸び悩み”ではなく“伸びしろ”の時期。
今は一時的に思うように踊れないかもしれませんが、そこにこそ、ダンサーとしての土台が育っています。


おわりに

バレエは、心と身体が繊細に結びついた芸術。
だからこそ、成長期の変化はダンサーにとってとても大きな試練になります。

でも、それは“踊れなくなる時期”ではなく、“本当の自分の身体と出会う時期”でもあります。
焦らず、自分と向き合う時間を大切にしてください。

そして、保護者や指導者のみなさまには、見た目や結果にとらわれず、その子の“今”を見守る姿勢が求められます。

成長を恐れず、自分らしく踊り続けていけますように。

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