はじめに
「体幹が弱いから軸がブレる」
「先生に“もっとコアを使って”と言われたけど、どうすればいいか分からない」
バレエにおいて、“体幹”という言葉は非常によく耳にします。
けれど、ただ腹筋を鍛えればいい、というわけではありません。
体幹とは単なる筋力ではなく、身体の安定と可動性、そしてコントロール力を支える「土台」です。
本記事では、バレエにおける体幹の本当の意味と、実際に踊りの質を変えるための体幹トレーニング法を詳しく解説していきます。
1. 「体幹」とは何か?よくある誤解
「体幹=腹筋」と考えている人も多いですが、実際の体幹とは以下の筋肉群の総称です:
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腹横筋(ふくおうきん):腹部の深層にあり、内臓や腰を支える
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多裂筋(たれつきん):背骨を支える深部筋
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横隔膜(おうかくまく):呼吸に関与し、体幹圧を高める
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骨盤底筋群(こつばんていきんぐん):骨盤の底から内臓を支え、安定性を生む
これらは**見た目に分かりにくい深層筋(インナーマッスル)**であり、体を支える「内側のコルセット」のような役割を果たします。
2. バレエにおける体幹の役割
体幹が強く、機能的に使えているダンサーには次のような特徴があります:
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軸がブレない → ピルエットやアラベスクで安定
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腰が抜けない → アロンジェやデヴロッペで美しいライン
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上体と下半身が連動 → ジャンプやパの切れが良くなる
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呼吸と動きが一体化 → しなやかで表現力のある動きに
つまり、体幹とは**“力を伝える通路”であり、“動きの中心”**なのです。
3. 体幹が弱いとどうなる?
バレエで体幹が弱いと、次のような不調やミスが起こりやすくなります:
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軸がぶれてピルエットで倒れる
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バランスを取ろうとして肩が上がる
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背中が反りすぎて腰に負担がかかる
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ポワントで立っても足がグラつく
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回転やジャンプで動きが散らかる
さらに、長期的には膝痛・腰痛・足首の不安定さなどの怪我にもつながります。
4. バレエのための体幹トレーニング法
■ ① ドローイン(腹横筋の活性化)
【やり方】
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仰向けに寝て膝を立てる
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おへそを背骨に引き寄せるイメージで、息を吐きながらお腹を凹ませる
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10秒キープ × 5回
【ポイント】
腹筋ではなく「お腹の奥」が働いている感覚を掴むこと。
■ ② バードドッグ(背部と腹部の連動)
【やり方】
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四つ這いになり、手と膝は肩幅・腰幅に
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右手と左脚をゆっくり伸ばす
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背骨のラインが真っ直ぐになるよう意識しながら10秒キープ
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左手と右脚も同様に行う(左右交互に3セット)
【ポイント】
背中が反ったり、骨盤が傾いたりしないように注意。
■ ③ プランク(総合的な体幹安定)
【やり方】
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うつ伏せから前腕とつま先で身体を支える
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肘は肩の真下、背中は一直線に
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30秒〜60秒キープ
【ポイント】
腰が落ちたり、逆に上がりすぎないよう、常に背中を意識。
■ ④ 骨盤底筋トレーニング
【やり方】
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椅子に座る or 仰向けに寝る
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「おしっこを途中で止める」ような感覚で骨盤底筋を収縮
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5秒キープ × 10回
【ポイント】
呼吸を止めないようにすること。腰やお腹に力が入りすぎないよう注意。
5. 体幹は“使う”ことで強くなる
ただトレーニングするだけでなく、「レッスン中に体幹を意識的に使う」ことで、踊りの中で活かされます。
レッスンでの意識ポイント:
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プリエで骨盤と背骨の位置をキープする
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ピルエットのプレパレーションでコアを安定させる
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ジャンプの着地で腹横筋を締めるように支える
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パッセバランスで軸脚を引き上げ、中心を保つ
6. 体幹と“呼吸”のつながり
実は体幹の深層筋と「呼吸」は密接に関係しています。
特に、横隔膜(呼吸筋)と腹横筋はセットで働きます。
つまり、浅い呼吸では体幹は働きにくく、逆に深くゆったりした呼吸を意識することで、自然に体幹が働きやすくなります。
まとめ:バレエにおける体幹は“見えない筋肉の芸術”
バレエの上達において、「見える形(ラインや足の高さ)」だけに目を向けがちですが、本当に大切なのは、その美しさを支える“見えない部分”=体幹です。
体幹が整えば、回転もジャンプもバランスも、すべてが劇的に変わっていきます。
焦らず、丁寧に、自分の内側と向き合う時間を作ってみてください。