はじめに
バレエに打ち込む子どもたちの多くが、思春期になるとふと気づきます。
「最近、身長が伸びない気がする……」
「周りの友達より小さいかも?」
「もしかして、バレエが原因?」
保護者の方からも、同様の不安の声を聞くことがあります。
今回は、「思春期のダンサーの成長と栄養管理」という繊細で重要なテーマについて、科学的根拠と現場の経験を交えて深掘りしていきます。
第1章:なぜバレエをしている子は「身長が伸びにくい」と思われがちなのか?
1. 激しい運動=成長阻害?は誤解
まず結論から言うと、適切な栄養と休息を伴う限り、バレエの運動が成長を妨げることはありません。
ただし、「バレエ中心の生活」によって以下のリスクが高まることは事実です。
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エネルギー不足(摂取量 < 消費量)
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過度のトレーニング
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食へのこだわり(=過剰な食事制限)
特に「細さ」を美徳とする風潮があるクラシックバレエの世界では、思春期の成長期に必要な栄養が“無意識に不足している”ケースが多いのです。
第2章:成長に必要な「4つの鍵」
1. エネルギー(カロリー)
思春期は、成長ホルモンが活発になるため、体の成長に非常に多くのエネルギーが必要になります。
バレエの練習で大量にエネルギーを消費する子どもたちは、一般の同世代よりもさらに多くのカロリーが必要です。
▶ 推奨される摂取量(目安)
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女子(12〜15歳):2,200〜2,600 kcal/日
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男子(12〜15歳):2,500〜3,000 kcal/日
これに加えて、バレエの練習が1〜2時間以上ある場合は+300〜600 kcalを目安に追加しましょう。
2. タンパク質
筋肉・骨・内臓・ホルモンの原料となるタンパク質。
特に成長ホルモンの分泌が盛んな夜間の前後に、良質なタンパク質をしっかり摂取しておくことが大切です。
▶ おすすめの食材
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鶏肉・卵・魚・大豆製品(豆腐・納豆)
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無脂肪または低脂肪の乳製品
3. カルシウム & ビタミンD
骨を作る栄養素の代表格。
日本人は慢性的にカルシウムが不足しやすく、特に女子は骨密度が低くなりやすいため、意識的な摂取が必要です。
▶ ポイント
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牛乳やヨーグルトだけでなく、小魚や小松菜、豆腐などの和食素材にも注目。
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ビタミンDは日光を浴びることで合成されるため、「外に出る時間」も大切。
4. 鉄分
思春期は血液の増加によって鉄分の必要量が増加します。
鉄不足は、疲労・集中力低下・筋力低下・免疫力の低下などを引き起こします。
▶ 特に女子は要注意!
月経の開始後、鉄不足による「隠れ貧血」になる子が増えます。
第3章:「バレエ体型」と「健康的な成長」は両立できる
バレエの美しさ=痩せていること?という誤解
バレエで求められるのは、**“動けるしなやかな体”**であり、「痩せすぎた体」ではありません。
体脂肪率が極端に低くなると、以下のリスクがあります。
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初潮の遅れ、無月経
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骨粗しょう症のリスク増加
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免疫力・集中力の低下
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成長の遅延
健康的な食習慣のもとで育った体は、長く踊り続けるための最大の武器になります。
第4章:成長を支える1日の栄養スケジュール(例)
時間帯 | 食事例 |
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朝食 | ご飯+卵焼き+納豆+味噌汁+果物 |
昼食 | おにぎり+鶏の照り焼き+ブロッコリー+みかん |
練習前 | バナナ+小さなチーズ+水分補給 |
練習後 | 豆乳+おにぎり or パン+卵 |
夕食 | 魚料理+ご飯+ほうれん草のお浸し+スープ |
夜食(成長期の場合) | ヨーグルト or 小さな牛乳+クラッカー |
第5章:保護者と教師ができること
保護者へ
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こどもの体重や身長だけでなく、疲労感・食欲・月経の有無なども定期的に確認しましょう。
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食事を“体づくりのツール”と捉え、「制限」ではなく「強化」として声をかけてください。
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お菓子NGではなく、“バランス”を教える教育を。
教師へ
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体型や体重に対する不用意な発言を避けましょう。
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生徒が健康的に成長できるよう、食と栄養のリテラシーを一緒に高める姿勢を。
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栄養指導の専門家と連携することも有効です。
おわりに:成長は、踊り手にとっての“土台”
身長の伸び、骨格の発達、筋力の強化――。
これらすべては、バレエのパフォーマンスを支える**“土台”**です。
短期的な「見た目」に惑わされず、長く踊り続けられる体を育てることこそが、本当の意味で「バレエ体型」と言えるのではないでしょうか。
成長期のダンサーにとって、食べることは踊ること。
未来の舞台のために、今日もしっかり食べて、よく眠って、強く優しく成長していきましょう。