はじめに
バレエでは「足元ばかりに気を取られてしまいがち」だとよく言われます。ですが、本当に観客の心を打つ踊りをしているダンサーは、上半身、特に腕(ポール・ド・ブラ)を美しく使いこなしています。
脚の技術は十分あるのに、どこか踊りが“硬く”見えたり、“無機質”だったりするのは、腕の表現力や使い方に問題があることが多いのです。
この記事では、ポール・ド・ブラの基本から応用、美しく見せるポイント、トレーニング方法までを解説します。
1. 「ポール・ド・ブラ」って何?なぜ大切なの?
「ポール・ド・ブラ(Port de bras)」とはフランス語で「腕の運び・動き」という意味です。
◆ 重要な理由:
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表現の要になる(感情を伝えるツール)
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身体のバランスを保つ(腕の位置が軸に影響)
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上半身との一体感を作る
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踊りの“空気感”や品格を決める
つまり、脚だけでなく、全身の流れをつくるのがポール・ド・ブラなのです。
2. よくあるポール・ド・ブラのNG例
バレエ初心者から中級者の間でよく見られるのが以下のパターンです:
✘ 手先だけが動いている
→ 腕全体の流れがなく、バラバラに見える。
✘ 肩が上がってしまう
→ 首が詰まり、優雅さが失われてしまう。
✘ 早すぎる/遅すぎる
→ 音楽とのズレで、動きに違和感が出る。
✘ 無表情な手
→ 「動かしている」だけで「語っていない」。
3. 美しい腕の動きのためのチェックポイント
✅ 肘が主導
腕の動きは、肘を起点に導くように行います。手先から動かすと、流れが止まりがちです。
✅ 手のひらの表情に気を配る
指を伸ばしすぎず、自然なカーブを描きましょう。小指・薬指に軽く力を入れると品が出ます。
✅ 背中から腕を動かす
肩甲骨を意識し、背中の筋肉で腕を動かす感覚を持ちましょう。これにより、動きがダイナミックかつ繊細になります。
✅ 呼吸とともに動く
呼吸を止めずに、動きと連動させましょう。息とともに“運ぶ”イメージです。
4. ポール・ド・ブラを上達させる練習法
■ 壁トレーニング(背中の感覚強化)
壁に背中をつけて立ち、腕を1番→2番→アロンジェとゆっくり動かす。
→ 背中から動かしているか?肩が上がっていないか?を確認。
■ 鏡でのセルフチェック
毎回のレッスン後に鏡を見ながら自分のポール・ド・ブラを再確認。
“動きの流れ”が途中で切れていないか、手の形が不自然でないかを確認しましょう。
■ 音楽に合わせてフロアで練習
ワルツやアダージオの音楽を流しながら、音に合わせて呼吸しながらポール・ド・ブラを練習。音楽性と優雅さを養うのに最適です。
5. プロの視点:「上半身で語れるダンサーは強い」
プロのバレエダンサーは、脚のテクニックがあるのは当然。そこに加えて**“物語を語ることができる腕”**を持っている人が観客を惹きつけます。
海外のバレエ学校でも「arm artistry(腕の芸術性)」が重視され、バーでの練習から徹底して指導されることも少なくありません。
6. 実例:ある高校生ダンサーの変化
高校2年生のあるダンサーは、足のテクニックには自信がありましたが、コンクールで「表現が乏しい」と言われ落ち込んでいました。
そこで彼女は1日10分、ポール・ド・ブラの練習だけを集中して行う時間を確保。鏡で腕の流れを確認しながら、音楽に合わせて感情を込めるようにしたところ、次の舞台では「踊りが生き生きしていた」と観客や先生から高評価を得ました。
おわりに
バレエの美しさは、脚のテクニックだけで完成するものではありません。腕の動き、表情、そして感情を運ぶ力こそが“踊り”そのものです。
今日から少しずつ、ポール・ド・ブラの練習を意識してみてください。
あなたの踊りに、きっと新しい生命が宿るはずです。