はじめに
バレエといえば、やはり「柔らかくなければいけない」というイメージがありますよね。
SNSでよく見かける180度開脚やY字バランスは、多くのダンサーの憧れでもあります。
しかし、実は**「柔らかければよい」という考え方には大きな落とし穴**があるのをご存じでしょうか?
今回は、柔軟性とパフォーマンスの関係、そして正しい柔軟性の高め方について、バレエの視点から深掘りしていきます。
1. 柔軟性の正体とは?可動域と安定性のバランス
柔軟性とは、関節がどれだけの範囲で動けるかを表す“可動域”のこと。
バレエでは、股関節・肩・背骨・足首など、さまざまな部位に高い可動域が求められますが、ただ「開けば良い」「曲がれば良い」という話ではありません。
柔軟性の落とし穴:
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安定性がなければ怪我につながる
→ ただ伸びるだけでは、コントロールできず不安定に -
筋力が伴っていなければ踊れない
→ 柔らかくてもポジションをキープできなければ意味がない
つまり、本当に必要なのは**“動ける柔軟性”=モビリティ(Mobility)**。これは、可動域と筋力・安定性の両立ができて初めて手に入るものです。
2. 間違ったストレッチがもたらす危険性
よくある例
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無理な押し開脚や他人による補助ストレッチ
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痛みを我慢してバウンドするような動作
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踊る前に静的ストレッチを長く行う
これらは一見、柔軟性を高めているように見えますが、実際は逆効果であり、靭帯の伸びすぎ・筋損傷・パフォーマンス低下の原因になりえます。
実際のリスク:
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股関節唇損傷
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腰椎の疲労骨折
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膝のねじれや捻挫
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筋肉の収縮力低下によるジャンプ力ダウン
「柔らかいだけ」の身体は、長く踊れません。
3. 正しい柔軟性を育てる方法とは?
① ダイナミックストレッチを取り入れる
踊る前は、反動や動きを伴う**動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)**が有効です。
例:
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レッグスイング(前後・左右)
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背骨のローテーション+アームスイング
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プリエ+ポールドブラで体幹を起こす動作
→ 筋温を上げながら、可動域と神経系を目覚めさせる!
② アクティブストレッチで可動域+筋力を同時に育てる
アクティブストレッチとは、自分の筋肉の力を使って関節を動かす柔軟方法です。
例:
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仰向けで脚を上げ、もも裏を使って自分で引き寄せる
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骨盤を固定したまま、腸腰筋を使って脚を上げる練習
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アラベスクポジションを1秒ずつキープする練習
これにより、ストレッチしながら「踊れる柔らかさ」を手に入れることができます。
③ 弱い筋肉を見つけて鍛える
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「開脚ができても、ルルヴェでぐらつく」
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「脚は上がるのにポーズがキープできない」
そんなときは、安定性に関わる筋肉が弱いサインです。例えば:
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中臀筋(ターンアウトの安定)
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腸腰筋(脚の持ち上げ)
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横腹(回転時のバランス)
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足裏・内転筋(床との接地)
これらをピンポイントで鍛えると、柔軟性を活かした動きが格段に洗練されます。
4. 柔軟性の目標は「自分の身体をコントロールできること」
柔軟性を競うような感覚になっていませんか?
開脚180度や背中のブリッジ、Y字バランスは「技術」ではなく、身体のコントロールの結果であるべきです。
一流のダンサーは、柔軟性そのものを“魅せる”のではなく、それを表現に変換できる力を持っています。
だからこそ、柔軟性を高めるだけでなく、
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どこで止めるか
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どう美しくコントロールするか
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安定感と流れを両立させるか
といった視点がとても重要です。
おわりに
柔軟性は、バレエにおいて確かに必要不可欠な要素ですが、それがすべてではありません。
むしろ、正しく育てなければ怪我や不調を招き、踊ることが辛くなる危険も潜んでいます。
「柔らかい」ことではなく、“動ける”“踊れる”柔らかさを目指すこと。
それが、将来のバレエ人生を豊かにし、表現の幅を広げてくれるはずです。
あなたの身体と真摯に向き合いながら、必要な柔軟性を賢く手に入れていきましょう。